十牛図(授戒編)⑥
2025.10.28
十牛図の六 騎牛帰家(きぎゅうきか)
牛は逃げようとせず、童子を乗せる程おとなしくなりました。
牛の背に乗ると遠くまで見渡せ、童子は横笛の音色を楽しみながら、家路をたどります。
ついに本来の自己を自分のものに出来ました。
自分の内面を深く観察する余裕もあります。
身も心も軽く、安らかで、自由な境地です。
童子は牛の背に乗って、家に帰ります。牛が自然に家へと導いてくれるのです。
つまり、本来の自己とそれを求める自己が一体になったため、求めようと努力しなくても仏性は自然に深まるのです。
修行の気持ちの発端は、よく「四弘誓願文」という言葉に表されています。
もとは菩薩が立てた四つの誓いで、これが成就しなければ、菩薩は自分も悟りの世界には行かないと誓ったのです。
最初に願いを立て、これに向かって努力をしていた事が、今はすっかり忘れられていますが、このまま努力をしなくなる事は「人よりも楽に」生きたいという、煩悩の始まりに繋がってしまいます。
そこで四弘誓願文では、
「衆生無辺誓願度」この世のすべてのものを悟りの世界へ渡らせたい。
「煩悩無量誓願断」すべての迷いを断ち切りたい。
「法門無尽誓願学」仏のあふれるほどの教えをすべて知りたい。
「仏道無上誓願成」悟りの境地に至る為に一心に努力したいと、改めて誓いを立てる大切さを説いているのです。
悟りの形さえ見えない私たちには、遠い世界の様にも思えますが、心が洗われる世界に歩み出すには、しっかりした決意が必要で、その心掛けが四弘誓願文です。
戒師さまが正授戒文を戒弟の皆様にお授けになられた後に、この四弘誓願文を一句ずつ唱えて四隅を踏み、このあと戒弟の皆さまが登壇しても大丈夫であると、須弥点検されてから下座するのを家風とされている戒師さまもいらっしゃるそうです。
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